Webマーケティングに大切なことは全てLinkin Parkが教えてくれた -前編
2015/06/29カテゴリー:コンテンツマーケティング
「Webマーケティング」で頭が凝り固まってしまったあなたへ。
今回は、Linkin Park(リンキンパーク)というロックバンドを通じて、彼らが取り組んでいる先進的なWebマーケティング、プロモーション手法をご紹介します。
これを読めば、世界にはマーケティングすらエンターテイメントにしている集団がいる、しかもそれは大企業でなくロックバンドである、という事実に、驚きと共に気づかれると思います。
Linkin Parkはミレニアムの年、2000年にフルアルバム”HYBRID THEORY”でメジャーデビューして以来、本国アメリカを始めとした世界中で大ヒットを飛ばし続け、全世界のアルバムトータルセールスは5,500万枚を超えるモンスター・バンドです。
誰もが思わず聴き惚れるような繊細な歌声とポスト・ハードコアに通ずるシャウトを使い分けるチェスターのボーカルに、日系アメリカ人マイク・シノダのラップのツインボーカル、さらに韓国系アメリカ人二世のジョー・ハーンがDJとしてターンテーブルやサンプラーを操るスタイルが非常に特徴的です。メンバーの無国籍感も印象的ですね。
わかりやすいメロディが日本でも人気で、「洋楽の世界への入り口」として挙げられる事も多いです。映画トランスフォーマーの主題歌を手がけている事も有名です。
ロックバンドにヒップホップの要素を載せる、いわゆる「ラップコア」「ラップメタル」「ミクスチャーロック」と呼ばれるジャンルは2000年以前から既にLimpbizkitなどが活躍して一部で盛り上がりを見せていましたが、Linkin Parkこそがこのジャンルをメジャー・シーンに押し上げた立役者だと思います。
自分たちの強みを活かした商品開発
まず、Linkin Parkが行なったWeb戦略をご紹介する前に、彼らの唯一無二のスタイルがいかに確立されたかをお話させて下さい。
「ラップメタル」(ミクスチャーロック)という市場にLinkin Parkが参入してくる以前、このジャンルは音楽的にアンダーグラウンド的な要素が強くありました。あくまでも「オルタナティブ・ロック」から派生するジャンルであり、メインストリームとは異なる文化の中で支持されていました。
90年代のラップメタルの代表格といえば、真っ先にLimpbizkitが浮かびます。
1999年に発表されたLimpbizkitの2ndアルバム”Significant Other”からの1曲
ラップメタルという市場が存在していたにせよ、ロックバンドの中にDJやラッパーが在籍するというのは当時はまだまだマイノリティでした。
iPhoneがブームになる前、日本国内では「絶対に流行らないだろう」という意見が大多数だったように、いかなる場面においても、新規性のあるものには批判的な意見がつきまとうんですね。
Linkin Parkの結成時も、例外ではありませんでした。
ラップとギター、キーボードを担当するマイク・シノダは、サイドプロジェクトとして2005年にヒップホップ・ユニット”Fort Minor”を結成、アルバムを発表しています。そこに収録されている”Get Me Gone”のリリックの一部をご紹介します。
Fort Minorの2005年のアルバム”The Rising Tied”から”Get Me Gone”
俺たちがLinkin Parkの最初のアルバムを作る前に、こんなこと言われたんだけど、
「あのさぁ、ラップするなんて聞いたことないよ、知らんけど、君たちは普通にロックバンドをやりなよ」
わかる?俺たちと契約結んで、サウンドを変えさせられそうになったわけ
で、「わかんないけど、君はキーボードでもやったら?」だとよ俺たちの最初の曲の以前から
連中はもう俺を締め出そうとしてた
曰く ラップなんてやめて
「キーボードでも弾いてろ」と
このバンドはシンガーがいるから
お前なんか必要ない と
でもバンドのメンバーは俺を支持してくれた
だから曲を作ったのさ
このくだりで、彼らがレーベルと音楽性、とりわけマイク・シノダのラップ・パートの必要性についていざこざがあったことがわかります。
レーベルは、ロックバンドにラッパーがいるということが理解できず、普通のロックバンドとして勝負をかけろと保守に走ります。
ところがLinkin Parkは自分たちの「強み」を信じ、ラップをふんだんに取り入れた曲を作り上げてしまいます。
2000年のメジャー・デビュー・アルバム”HYBRID THEORY”はこのような経緯と共に完成しました。
直訳して「融合理論」と名付けられたこのアルバムから、自身の強みである「ラップ」を大々的に取り入れた1曲を。
荒地をゆっくり歩きながらラップするマイクと、塔の上から見下ろすように歌うチェスターの姿がカッコいい。
Linkin ParkのWeb活用戦略
ではここから具体的に、Linkin ParkがWebマーケティングの観点からいかに画期的な取り組みを絶えず行なってきたかをご紹介していきます。
話題は、90年代後期〜2000年頃に遡ります。
ちなみにGoogleとAmazonがやっと日本語サービスを開始したのがちょうど2000年。
Youtubeが登場するのはそのまた少し先の2005年の出来事です。
そんな、まだまだ「黎明期」的な時代から、Linkin Parkはバンドとしてはいち早くインターネットを活用した顧客獲得・育成戦略を実行しています。
ネットを通じてファンとのコミュニケーションを行なった
現在でこそ、「ソーシャル・メディアを通じてファンや顧客とコミュニケーションを取ろう!」などと声高に叫ばれていますが、Linkin Parkはソーシャルが登場する何年も前、90年代からそれを実践していた先駆者です。
90年代後半、”HYBRID THEORY”でメジャー・デビューする前、まだローカル・ヒーローだった頃から彼らは自身のWebサイトを開設していました。
サイト内の「BBS」(懐かしい響きw)を通じて、ライブに訪れたファンの意見などを吸い上げます。また、サイト上に制作中の楽曲を公開し、ファンの意見を取り入れながら曲のブラッシュアップを行なっていきました。
公式ファンサイトの設立
メジャー・デビュー後、2001年には公式ファンサイト「Linkin Park Underground」を設立します。年間費用を支払うと、ファンサイト限定のグッズや未発表曲を収録した音源が届くというものでした。
繰り返しますが時代は2001年。まだインターネットが一人ひとりに行き渡りきっていないこの時代に、この会員制サイトの告知をいかに行うか?
Linkin Parkは、自分たちのCDに入会方法を封入するという実にシンプルな方法を選びました。
CDにファンクラブの入会方法が封入されるというのは、ロック系ではたぶん彼らが初めてだった、と記憶する。こうして彼らはインターネット(=ファンクラブ)を駆使しつつどんどんファンベースを広げていき、ひとりひとりのファンとの関係もより深めていくのだった。そしてときに、LP UNDERGROUNDは彼ら主宰のメディアの役割をはたすのであった。
さて、こうして世界中のファンをWebサイトに取り入れる仕組みを構築したLinkin Parkは、ファンサイトを通じてファンとのコミュニケーションを強化していきます。
LINKIN PARKが『HYBRID THEORY』でメジャー・デビューした2000年後半――。世はまさにインターネット大普及時代に突入し、それまでの通信 & 宣伝手段のあり方が大きく様変わりし始めていた。その時代の“潮流”にいち早く着眼し、それをひとつのプロモーションツールとして効果的に使い、急速にファンベースを広げ、確立していったのが、彼らだった。ロック界ではそれを初めて実践した“先駆者”と言っても過言ではない。いったいいつ頃からそういう“時代の流れ”を読んでいたのか。
「(いくつものレコード会社より契約を)断られ続けたもんだから“もうイイよ、誰も契約してくれないなら自分たちで宣伝し、インターネットを介してCDを売るから”とも思ったくらいさ(苦笑)」
「ファンとの交流は毎公演後に必ずやっているんだ。そして、インターネットを通じてそういうことをやっているっていうことを広めている。たとえラジオやTVで曲が流れなくてもストリートレベルでファンを獲得したい。(以下略)」
で、すかさず「だけど、このままバンドがさらにビッグになっていったら、そうした現場でのファンとの交流は物理的にも難しくなるでしょう」とぶつけた。すると、ブラッドはこうキッパリと言い切った。
「確かにね。だけどそういうふうになったら、オレたちはファンクラブを通じてさらなるいろいろな方法でみんなと交流を図っていくよ。全然、心配ないね!」
レコード会社に契約を断られ続け、途方に暮れた彼らが目をつけたのがWebマーケティングだったという事がこのインタビューから読み取る事ができます。
「ストリートレベルでファンを獲得したい」と語っているように、Linkin ParkにとってWebを通じたファン・コミュニケーションは、まるでストリートや地元のライブハウスでファンと触れ合うように自然なものだったのでしょう。
いち早くWebのインタラクティブ性に気づき、SNSも無い時代から上手に活用していた彼らの姿勢には、今の企業においても大いに見習うべき所があると思います。
Webを使って「招待客」をピックアップ
Linkin Parkは自身のライブイベントの企画に対しても、さりげなくWebを活用する事があります。
2004年の、ヒップホップ界の「神」Jay-Zとの業務提携企画(笑)、”Collision Course”での事です。
Jay-Zと言えば、現代のブラック・ミュージックの第一人者であるだけでなく、ロッカフェラ・レコード、デフ・ジャム・レコードといった巨大レーベルの元CEOで、スポーツ・ブランドやバーなどを保有する「やり手の実業家」であり、妻はビヨンセという、もう地球を代表するレベルの勝ち組スーパーセレブ。
「モダン・ロックシーンのニューヒーロー、Linkin Parkと、ヒップホップシーンの超大物Jay-Zがコラボする」というニュースは、1986年のAerosmithとRun DMCのマッシュアップ“Walk This Way”の再来と言われ、大変センセーショナルなものでした。
Linkin ParkとJay-Z、お互いの曲同士をマッシュアップさせた6曲入りのミニ・アルバム”Collision Course”を完成させた彼らは、MTV主催のコラボレーション・ライブを行います。
1:30あたりから、ガムを噛みながらゆっくりとステージに近づき、貫禄たっぷりに登場するJay-Zの姿に鳥肌
このビデオを観て頂ければわかりますが、2大ビッグ・アーティスト同士が共に立つステージをここまで至近距離で体感できる観客の、なんと幸運な事か。
果たしてこの大盛り上がりのファンたちは、いかにして選ばれたのか?
ここでLinkin Parkは、Webをうまく使っていたのです。
秘密のアンケート
Linkin Parkはある日、公式ファンサイト”Linkin Park Underground”を通じて、ファンにアンケートをしました。いくつかある質問の中に、こんな質問が紛れています。
「Linkin Park以外で、お気に入りのアーティストは誰ですか?」
この質問に、「Jay-Z」と回答したファンだけをピックアップし、上のライブへの招待状を送付したのです。
Webアンケートを通じ、今回のイベントに対してマッチ度の高いファンをセグメントする。これにより、顧客満足度の極めて高いイベントの演出に成功したのです。
時代はSNSへ
黎明期よりいち早くネットを通じてファンとのコミュニケーションを図っていたLinkin Park。そんな彼らの前に、ソーシャル・ネットワークが登場しました。言うまでもなく、Linkin Parkはこの流れを歓迎しました。
Twitterの活用
Webを通じて常にファンとのやりとりを行う方法を探し続けているLinkin Parkにとって、Twitterは恰好のツールとなりました。
Linkin ParkのTwitter活用を代表するエピソードとして、東日本大震災復興支援の際、Mike ShinodaがチャリティTシャツのデザイン案をフォロワーから募っていた、というものがあります。
東日本大震災の被災者への寄付金を募るため、グラフィク・デザイナーとしても活躍するMike Shinodaはオリジナルの復興支援Tシャツをデザインします。
Mike Shinodaは日本へのチャリティとして、オリガミの蝶と日本国旗をバックに”NOT ALONE”と描かれたTシャツ2種をデザインし、案をファンに選ばせた。
結局このTシャツは2種類ともリリースされ、世界中のファンに1枚$25で販売され、収益金は被災者に寄付されたという事です。
LINEの活用
Linkin ParkはLINEが大好き!6人はまず、バンドのLINE公式アカウントをスタートさせます。
海外バンドがLINE公式アカウントを開設するのは、Linkin Parkが初めての事でした。
開設に伴い、ファンに向けたプレゼント企画が行われたのですが、ここでも彼らはちょっとした仕掛けを用意し、ファンを楽しませてくれました。
開設を記念して、メンバー全員の直筆サイン入り写真が抽選で当たるプレゼントキャンペーンも6月26日からスタートとなった。
LINEのトーク画面から、リンキン・パークに話しかけると返信される応答メッセージの中にプレゼント応募フォームへの入口が隠されているので、ぜひ出現するまで話しかけて応募フォームを見つけ出してほしい。
続いて彼らは、公式スタンプの配信もスタートさせます。スタンプのデザインを手がけたのはMike Shinoda。(現在、日本国内からのDLはできない。ちなみにLINEの”スタンプ”、アメリカでは”Sticker”と呼ばれているようです。)
Linkin Parkオリジナルのラインスタンプ。デザインはメンバーのMikeがプロデュース。
最近では、Mike ShinodaがLINEのライブキャストでファンからの質問に答えるという企画も行われています。
–@mikeshinoda will be answering your questions June 26th at 5pm PST. Submit your questions http://t.co/Mu9wDVTJXq https://t.co/8XDXASbE9r
— LINKIN PARK (@linkinpark) 2015, 6月 24
“Mike Shinodaが6月26日の午後5時から、皆さんの質問にお応えします。”
ちなみに、LINEを通じたコミュニケーションが気に入りすぎたMikeは、ソロプロジェクト”Fort Minor”として自らデザインしたLINEスタンプもリリースしてしまっています。
かわいいけど、いまいち使い道に困りそうなスタンプである。ちなみに日本国内からDLはできない。
なぜLinkin ParkがLINEを活用するのかと言えば、それはもう「ファンとのコミュニケーション」の為でしょう。
LINEのスタンプ配信について、Mike Shinodaはこんな風にコメントしています:
「LINEのスタンプ制作はすごく楽しかったよ。僕はいつもファンと繋がる新しい方法を探し続けているから、この企画はホントに楽しかった。」LP Official LINE Sticker Pack : Linkin Park
もともとネット黎明期からWebを通じてファンへのアプローチを行なっていたLinkin Park。彼らはTwitterやLINEといったツールを、「水を得た魚」のようにのびのびと活用していったのです。
実際にLinkin ParkのメンバーがSNSをどう捉え、どう考えているのか。MikeはインタビューでFacebookについての質問にこう答えています:
Facebook上に4,500万人のファンを持っていますが、ファンとの結びつきはかなり強いんじゃないですか?
凄いことだよ。このテクノロジーを使ってファンをどう取り込むかについて考えたんだ。4,500万人という数は俺たちが把握しようとしても無理な大きさだからね。
バンドはソロアーティストよりもファンを得にくい。というのは、もしバンド内の誰かが好きじゃなかったら、ファンにはならないからね。だからウチの場合は6人分ファンを失う可能性があるってことだよ(笑)。
でもラッキーなことにFacebookには沢山のファンがいて、俺たちはファンの数では全体で16位らしい。
Facebookはファンとのコミュニケーションツールだね。最初はあまりやらなかったけれど、ツイッターもそうだ。あと、俺たちは「今日のランチはこれ!」みたいなことを言うタイプじゃなかったけれど、Instagramが登場してからは結構ハマっていて、色々面白いなと思う出来事や物を紹介している。
ユーザーを巻き込む、究極のゲーミフィケーション
時代は移ろい、ここ数年はテクノロジーが激的に進歩しました。
ここまでネットを徹底的に活用してきたLinkin Parkは、現代のデジタル・マーケティングにおいて、ファンにいかなるサプライズを提供してくれたかをご紹介します。
デジタル・ヒーローとなったメンバー
ゲームの主題歌を手がけたロックバンドは数あれど、ゲーム化されたロックバンドはそういないでしょう。
Linkin Parkはデジタルが好きすぎるあまり、8ビットのデジタル・キャラクターに姿を変え、ファンのPCスクリーンに入り込んでしまったロックバンドです。
ゲーム、「 Linkin Park 8-Bit Rebellion! 」は、プレイヤーがLINKIN PARKの音楽を盗んだPIXXELKORPを倒すことを目標にしたゲーム。
ホント、PIXXELKORPは悪いやつらなんだぜ?民衆を洗脳して悪い方向に導こうとしているんだぜ?しかも、唯一の反抗手段である「リンキンの曲を聴きながら一揆」を封じるために、リンキンの音楽を盗みやがったんだぜ?
ゲームをクリアすると聴くことができる新曲「BLACKBIRDS」(このアプリ内でしか聴けない)が最大の目玉。PVが全クリと同時に流れます。さらには、FaintやNew DivideやIn The Endなど、過去の有名曲が8曲、原曲のまま入っており、さらに全ての曲の8-BITアレンジバージョンも聴くことができます。
太っ腹過ぎじゃね?やりすぎじゃね?サービス精神旺盛じゃね?実験的取り組みだからって頑張り過ぎじゃね?
Linkin Park 8-Bit Rebellion!: リンキンの新曲と、過去の名曲の8-BIT版が聴けるゲーム!1044 | 毎日17時更新!アプリをおすすめするAppBank
(ちょっと脱線しますが、このゲームがリリースされた2010年頃というのは、実はインディー・ロックシーンではちょっとした「8ビット」ブームが起こっていました。8ビット調のチープな音をハードコアやメタルコアに取り入れた”Nintendo-Core”(ニンテンドーコア)という立派なジャンルが誕生したくらいです。)
Linkin Parkのゲーム”8-Bit Rebellion”は、8ビットブームという音楽的なトレンドもバッチリ抑えており、さらに人気の高い過去曲の8Bitバージョンも聴けて、全クリすれば限定曲も聴けるとなればファンはDL必至でした。ちなみにアプリの価格は600円。
2010年といえば時代はまだiPhone4。今ほどスマホアプリ開発がさかんに行われていたわけではありませんでしたが、いち早く「アプリ市場」に手を付けたLinkin Parkの先見性たるや。
そして8-Bit Rebellionでゲーム制作・リリースのノウハウを得たLinkin Parkは、その後もう1つWebゲームをリリースする事になります。
ゲーム画面で、プレイヤーにお礼を言うLinkin Parkのメンバー。誰も似てなくてビックリする。
ゲームを通じ、新曲をファンに委ねる
2013年、Linkin Parkは人気DJのSteve Aokiとのコラボ曲”A Lights Never Comes”のリリースを発表します。
ちなみにSteve Aokiは世界的に人気なEDM系のDJ/トラックメーカーです。(父親はアメリカで有名なレストラン・チェーン BENIHANA オーナーのロッキー青木。妹は「シン・シティ」や「ワイルド・スピード X2」などにも出演している女優のデヴォン青木。)
日本での人気も高いセレブDJ、Steve Aoki
Linkin ParkとSteve Aokiの双方は、まず“A Lights Never Comes”のスタジオバージョンの一部だけを公開。2大アーティストのコラボレーションというだけあって、ファンたちは必死に情報を探します。
そして同年8月のサマーソニックで来日したSteve Aokiのステージに、ボーカルのチェスターとマイクがサプライズ登場。そこで日本のファンだけに特別に”A Lights Never Comes”をプレイしました。
世界中のファンに与えられたのは、日本の会場でスマホによって撮影され、Youtubeにアップロードされたブレブレで音の割れた映像。(撮影・アップロードを特に禁止しないところがいいよね。)
それから、LPメンバーと Steve Aokiのスタジオでの共同作業風景と、サマーソニックのステージのごく一部が収められた53秒の予告編映像のみでした。
そして9月、待ち焦がれているファンに対してLinkin ParkとSteve Aokiから与えられた「ミッション」は予想の斜め上を行くものでした。
「新曲”A Lights Never Comes”が聴きたければ、
今日リリースするFacebookゲーム”Linkin Park Recharge”をプレイして、
新曲をアンロックしろ!」
“8-Bit Rebellion”に続くLinkin Parkオリジナルゲーム企画の第二弾、”Linkin Park Recharged”
Linkin ParkとSteve Aokiから新曲をrelease(解放)するには、世界中のユーザーと協力してゲームをプレイし、条件を達成しなければならない・・・!
新曲の発表を、「ファンの努力に委ねる」という、彼ららしい前代未聞の試みでした。
このような経緯があり、Facebookゲーム”Linkin Park Recharged”は公開初日に30,000ユーザーを獲得。
「EDMのスーパースター Steve Aokiとのコラボレーション曲を発表」×「Linkin Parkオリジナルのパズルアクションゲームを公開」という2つのビッグニュースを”リミックス”させるというPRテクニックは、実にデジタルロックバンドらしいユニークな手法です。
これだけでも充分なサプライズであったのですが、実はこの時、Linkin Parkは“One More Thing”(さらにもう1つ)を用意していました。
それは、公開されたゲーム”Linkin Park Recharged”にちなみ、同年10月に公式リミックス・アルバム”Recharged”を発売するというものでした。
ゲームと共に告知されたリミックス・アルバム”Recharged”
Steve Aokiをフックアップしながらもさんざん焦らし、オリジナルFacebookゲームまで用意していたのは、全てのこの最新リミックス・アルバムのプロモーションのための布石だったのです。
そして、翌月9月、世界中のファンがゲーム内で1,000万MWh(ゲーム内でのスコア)を達成し、約束通り”A Light That Never Comes”のロックが解除され、晴れてアメリカ全土のラジオでオンエア解禁となりました。
この事例から学ぶべき2つのポイント
マーケティング担当者がこのプロモーションから学ぶ事のできるポイントは2つあると思います。
1つは、「参加型」であるという事。
バンドの新曲であっても、一般的な新商品のリリースであっても、一般的にはリリース側からユーザー側に向けて一方的に発せられるのが常ですよね。
ところがLinkin Parkはそこにユーザーを巻き込み、「ファンが参加しなければリリースされない」というインタラクティブ性を仕込みました。
未だかつて、「バンドの新曲の解禁が、自分たちの手にかかっている」という事例があったでしょうか。
「自分ごと」に感じたファンが続々とこのプロジェクトに参加し、新曲の存在に大きな関心を寄せていったのです。
もう1つはこのプロジェクトそのものが「ゲーミフィケーション」である、という事。
ゲーミフィケーションとは、まさしくゲームのように人々を熱中させて楽しませるような要素を、様々なものに取り入れ、ユーザーのエンゲージメント率やコミュニケーション性を発展させる手法の事です。
今回の場合、ゲームを通じて「特定の累計スコアを達成すると新曲解禁」という目標設定が巧みですよね。
最近、ゲーミフィケーションがWebマーケティングの分野で注目を集めていますが、Linkin Park Rechargedはかなり本格的なゲーミフィケーションを取り入れた事例。
「ビジネス」というより「エンタメ」の世界なのでなかなか注目される事はありませんが、楽曲やアルバムのプロモーション目的にわざわざ本格的なゲームまでこしらえてゲーミフィケーションを取り入れたというのは、「もっと注目されるべき」試みだと思いませんか?
世界中のファンの努力によってはじめて解禁になった”A Light That Never Comes”
Linkin Parkにかかれば、ゲームだってコンテンツマーケティングの資材となってしまう。
世界中のEDMファンとゲームファンをも巻き込んで大々的に行われたこのプロモーションは成功し、”Recharged”は2014年中盤にはアメリカ国内だけで111,000枚売れ、既存曲のリミックス中心のアルバムながらもダンス・エレクトリックアルバムとしては歴代8位、ハードロックアルバムとしては歴代25位のセールスという好記録を収めたのでした。
さて今回は前編という事で、Linkin Parkが取り組んできたWebマーケティング手法のエピソードをいくつかご紹介させて頂きました。
SNSが無い時代から、ネットを通じて積極的にファンとコミュニケーションを取っていたというのが素晴らしいですよね。
後編では、更なるエピソードと共に、Webマーケティングの人間がLinkin Parkから何を学び取るべきかについて解説していきます。